この度、『Cloud クラウド』で菅⽥将暉さん演じる吉井にバイトとして雇われる謎のアシスタント“佐野”を演じた奥平⼤兼さんとともに、聞き⼿に映画感想TikTokerしんのすけさんを迎えて、“佐野”という役を深堀するトークイベントを開催いたしました︕
本作が撮影されるにあたって俳優の皆さんに配布されたのが、各登場⼈物の裏設定が書かれた資料。通常、⿊沢監督はこうした資料をつくることはなく、今回の資料に関しては助監督が作成されたそうで「読むかどうかは役者に委ねる」というスタンスの上で、黒沢監督が作成・配布にOKを出したという資料だそうですが、奥平さんは⿊沢監督から「できるだけ読まないで」と直接⾔われたとか。「佐野は謎だらけの役で『何を基準に演じればいいんだろう︖』という疑問が台本を最初に読んだ時からずっとありました。⿊沢さんに初めてお会いする時は、役柄についてたくさん聞こうと思っていたんですけど『設定資料はできるだけ読まないで』と⾔われて、⿃肌が⽌まらなかったです(笑)。僕は出演陣の中でも⼀番若⼿で『頑張らなきゃ︕』という気持ちもある中、不安しかなかったです」と当時の⼼境を明かすも、現場で奥平さんから役柄について⿊沢監督に細かく質問をすることもなかったようです。「今回の⿊沢監督の演出は、いままで全然違って、すごく楽しかったんです。⿊沢監督に現場で何を⾔われるのか︖楽しみに待っていたところがあって、たしかに現場でこちらから役について質問したことはなかったかもしれません」と、役者から愛される⿊沢清監督の演出について話してくださいました。
⿊沢監督から驚きの指⽰をされたというエピソードでは、⻑回しで撮影された、佐野が菅⽥さん演じる吉井のパソコンを勝⼿に触ったことが露⾒するというシーンで、なんと奥平さんは「前⽇に⿊沢さんから『菅⽥将暉を超えてください』と言われたんです…。芝居を始めてまだ4年⽬の⼈間が、世界の⿊沢清監督に⾔われる――あれは⼀⽣忘れないと思います。ビビり散らかしていましたね(苦笑)」と当時の心境を振り返りながら語ってくれました。⿊沢監督がそのように⾔った理由について、奥平さんは「あの辺りから、佐野の存在がより謎になってくるんですよね。最初はただのバイトだったのに『なんだこいつ︖』いう感じが、際⽴っていくんです」と佐野の謎がどんどん深まっていく重要なシーンだったからではないかと考察しているそう。
そして、海外の映画祭で本作が上映される際にドッと笑いが起きていたという、佐野の「アシスタントですから」というセリフについて、「あの回答⾃体が、聞かれた質問の答えにはなってないんですよね(笑)。でも佐野は真⾯⽬に⾔っているんです。そこに不気味さがあるし、『何考えてるんだ︖』というのが引き⽴てられるセリフだと思います」と語りました。
そして、この⽇の観客の皆さんに対し奥平さん自ら、本作を⾒て「怖さ」と「笑い」のどちらを強く感じたかを質問するという場面も。客席は「怖い」と感じたという⼈が多数を占めつつ、「笑い」を感じたという観客も⼀定数⾒られた結果に奥平さんは「この結果がすごいなと思います。なんで全く違うこの要素で、こんなふうに⼆分化されるのか︖そこがこの映画の⾯⽩さでもあると思います」と⿊沢監督がつくりだした独特の奇妙な世界観、鑑賞後感に改めて驚いていました。ちなみに、⿊沢監督は海外メディアからの取材に対し、佐野について「悪魔(メフィスト)のような存在だと思ってもらっていい」と⾔明していますが、奥平さんはそのことについて、「(現場で⿊沢監督から)直接、そう⾔われたかは覚えてない」と語りつつも「演出や台本、物語の進⾏を⾒ていて、悪魔的な⽴ち位置というか、吉井を(地獄の)渦の中に連れこもうとしている節があるのは感じていました。でも(吉井の)味⽅でもあって……」と回答され、演じる上で“悪魔”ということを意識したかを尋ねられると「全くなかったです。もちろん、佐野がどう⾒られるかは⼤事なんですけど、正直なところそれどころじゃなかったです。佐野が何をしたいのか︖吉井をどのように導くのか――︖ 佐野としての⽬的しか考えてなかったですし、⿊沢監督の演出もあって、それが結果的に悪魔の象徴のような役になったのかなと思います」とふり返っていました。
また劇中の松重豊さんと奥平さんの共演シーンに関しても、先述の菅⽥さんとのシーンと同様に⿊沢監督から奥平さんに「松重豊と対等の存在感を出すように」という“圧”(︕)が掛けられたというエピソードも飛び出しました。奥平さんは「どうしたら松重さんの貫禄に抗えるんだろう︖ とすごく考えましたが、リラックスして『3 ⽇に⼀度くらい、こういうことってあるよな』という感覚でなんとか乗りきました」と独特の対処法を明かしてくれました。
銃撃シーンも⾮常に印象的な本作。⿊沢監督は、あえて銃撃戦を「カッコよく描かないよう」に腐⼼しており、奥平さんも「カッコつけないでください」と⾔われたそうです。その⼀⽅で、佐野はノールックで相⼿を撃つなど、銃の扱いにも慣れた様⼦を⾒せなくてはならなかったと苦労を語り、「スマートに銃が扱えるようにということで、とりあえず⼿に慣れたほうがいいなと思い、家の中でずっと持っていました。本当は、外でも隠して持っていたかったんですけど、さすがにそれは良くないなと(笑)家の中だけでずっと持っていて、おかげで、⽚⼿でいろんな動きができるようになりました。ライフルも弾を押し出す動作があって、それはかなり練習して⾃信もありましたし⿊沢監督からも『うまくできていましたよ』と⾔ってもらいました」と笑顔で振り返っていました。
銃の扱いや描き⽅に関してこだわりが強いことで知られる⿊沢監督。奥平さんはそんな⿊沢監督の気質や好みをよく知る現場の制作スタッフから「現場でコソコソっと『ちょっと(銃を)斜めに持ったら、⿊沢監督が喜ぶと思うよ』と教えていただきました。完成した映像を⾒て、何気ないけれど良く映っていることが確認できて嬉しかったです」と満⾜そうに語る場⾯も。
ちなみに、気に入っている佐野のセリフやシーンを尋ねられた奥平さんは、クライマックスシーンでの佐野の「吉井さん、凄いですね︕」をというセリフを挙げて、「佐野史上⼀番嬉しかったんじゃないかってくらい、嬉しそうに演じました」と語り、その後、佐野や吉井が繰り広げる会話についても「こういった極限状況では、⼈間ってこうなるのかもしれないと考えさせられました」と語りました。
そしてトークイベントの最後に奥平さんは「僕⾃⾝、佐野のバックグランドについて知らないまま演じましたが、映画的な役割や⽬の前の⽬的にフォーカスをあてることで、役ってこんなに⾯⽩くなるんだと教えてもらったのがこの映画でした。佐野以外にも、荒川良々さんが演じた役もめちゃくちゃ⾯⽩かったし、細部まで魅⼒的で、⾯⽩さを⾒出せるところがたくさんある映画だと思います。何年か後、10年後でもいいですし、2回、3回、4回と何回も⾒ていただけると嬉しいです」と本作への思いを熱く語り、会場は温かい拍⼿に包まれて終了しました。
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